借主の迷惑行為と契約解除の関係

賃貸マンションやアパートでは入居者が平穏に居住できる環境が重要です。

一般的な賃貸借契約書では「他の住民への迷惑行為を行わないこと」が賃借人の義務として規定されています。

また契約書に記載されていなくても、「賃借人が賃貸借契約上負うべき付随義務として、正当な理由なしに近隣住民とトラブルを起こさないように努める義務」を負っていると解釈されています。

もし賃借人が他の住民に対して迷惑行為を行ってトラブルを生じさせた場合は債務不履行(契約違反)に該当することとなりますので、賃貸人は契約違反を主張して契約解除できれば退去させることが可能です。

しかし賃貸借契約の解除の可否は「信頼関係破壊の法理」により判断されますので、「賃借人の契約違反行為が当事者間の信頼関係を失わせる程度のものかどうか」という点が検討されます。

どの程度の迷惑行為であれば契約解除事由となるかについては明確な基準がないため、公表されている裁判例を調査してその傾向を探っていくこととなります。

【裁判例】賃借人と騒音を巡ってトラブル

今回紹介するのは、賃貸マンションにおいて両隣の賃借人と騒音を巡ってトラブルを複数回起こしていた賃借人に対して解除が認められた事例(東京地方裁判所平成10年5月12日判決)です。概要は以下の通りです。

  1. ある賃借人が両隣りの賃借人とトラブルを起こすようになった。例えば入居直後から「部屋から発生する音がうるさい」などと隣の入居者に文句を言うようになり、何回も執拗に抗議を続け、夜中に壁を叩くなどしたり、廊下を通る際に隣の部屋の扉を強く足で蹴飛ばした。
  2. マンションの管理人に対しても、「両隣りの部屋の音がうるさくて仕方がない、何とかしてくれ」などと数回にわたり文句を言ってきたり、仲介業者の担当者に対しても、「隣の住人が夜中にコツコツ壁を叩いたりしてうるさいので何とかしろ」などと要求し、その後も何回か同様の文句を言ってきた。
  3. こうしたことが、問題の賃借人の入居直後から約10カ月以上続いた。
  4. 隣の入居者は、この問題の賃借人が入居する3年前から入居していたが、これまで特に問題もなく、クレームを受けた後に管理人が夜に騒音を何度か確認しに行ったが一切聞こえなかった。結局、隣の入居者は、「小さい子供に何かあったら困る」と言って、この問題の賃借人の入居後10カ月後には退去してしまった。以後、この部屋は空き室となっている。
  5. もう一方の隣室の入居者も、5年以上住んでいてトラブルはなかったが、この問題の賃借人が入居して3カ月後に「隣が物騒なので出ます」と言って退去した。その後に隣室に入居した入居者に対しても同様のことが行われすぐに退去されてしまった。
  6. このため問題の賃借人の両隣りの部屋は、この賃借人の悪い噂が広まってしまい、新たな入居者も見つからず今も空き室のままとなっている。

裁判所の判断

裁判所は迷惑行為が契約違反に該当するかについて以下のように述べています。

「隣室から発生する騒音は社会生活上の受忍限度を超える程度のものではなかったのであるから、共同住宅における日常生活上、通常発生する騒音としてこれを受容すべきであったにもかかわらず、これら住人に対し、何回も、執拗に、音がうるさいなどと文句を言い、壁を叩いたり大声で怒鳴ったりするなどの嫌がらせ行為を続け、結局、これら住人をして、隣室からの退去を余儀なくさせるに至った。」

騒音に対する賃借人の行動は正当な理由がないものと判断しました。

その上で以下のように述べて、この賃借人の行為は契約違反に該当すると認定しています。

「本件賃貸借契約の特約において、禁止事項とされている近隣の迷惑となる行為に該当し、また、解除事由とされている共同生活上の秩序を乱す行為に該当するものと認めることができる。」

この迷惑行為が信頼関係を破壊する程度か否かについては、以下のように述べて契約解除を認めました。

「賃借人の各行為によって、五〇六号室の両隣りの部屋が長期間にわたって空室状態となり、賃貸人が多額の損害を被っていることなど前記認定の事実関係によれば、賃借人らの各行為は、本件賃貸借における信頼関係を破壊する行為に当たるというべきである。」

まとめ

この事案の賃借人はかなり特異な賃借人とも言えるのですが、迷惑行為が解除事由となる一つの基準として「その迷惑行為によって、複数の近隣入居者が退去してしまった」ということを示した裁判例として参考になります。

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