徒歩10分って何メートル?あまり知られていない不動産表記のルールとは?

厚生労働省「国民健康・栄養調査報告」(令和元年)によると、一日の平均歩数は男性6,793歩、女性5,832歩だそうです。これを20~64歳に限ると、男性7,864歩、女性6,685歩だったものが、65歳以上では男性5,396歩、女性4,656歩にまで減少して、高齢になるほど歩く量が減ることを示しています。やはり歩くのは疲れるので、目的地は少しでも近いほうがよいと考えてしまいますね。不動産においても「徒歩何分」という条件が家賃や空室率に大きく影響します。この「歩く」ことは自然すぎて普段は速度を意識することはありませんが、不動産広告では「分速=80メートル(m)」を基本とすることが不動産公正取引委員会によって決められています。最寄り駅から10分と標記される時は道路距離で800m未満でなければならないのです。

不動産表記に新たなルールが追加

そして2022年9月1日から、不動産広告について定めた「不動産の表示に関する公正競争規約(以下︓表示規約)」及び「表示規約施行規則」が改正され「徒歩〇分」などの扱いがより厳密になりました。

これまで徒歩〇分はどこからどこまでの距離を示したものなのかについてはルールが曖昧に定められていました。例えば敷地の広いマンションと駅までの距離を表記する際に、実際にはエントランスまで行かなくては入室ができないにも関わらず、駅から敷地内までの距離を表記していても問題はありませんでした。駅から徒歩3分という好立地を決め手に入居を決めたとして、実際にエントランスまでは5分以上、自室までは更に掛かるとなると住み心地に違和感を感じるでしょう。特に高齢者にとっては不便を感じてしまうのではないでしょうか?

今回の改訂物件の起点を「建物の入り口」と明記しました。敷地の入り口は不可となります。他にも駅やその他の施設(バス停など)は「その施設の出入り口」と明記されました。

そのためこれまでの表記されていた距離よりも表記される数値が増える可能性がありますが、実際に入居する人にとっては正確な距離感を把握することができるため、より生活に対するイメージが湧くでしょう。

 

物件名に「〇〇海岸」「〇〇川」が増える︖

 規則は強化ばかりではなく緩和されたものもあるので紹介しておきます。イメージアップのために物件名に地域の名称を入れているケースがあります。今までは、物件が公園、庭園、旧跡等から直線で300m以内にあれば、その名称を使用できていましたが、そこに海(海岸)、湖沼若しくは河川の岸なども加わりました。これからは、「○○海岸」「○○川」などの入った物件名が増えるかもしれません。また、街道の名称は、これまでは物件が道路に面していないと使用できないこととしていましたが、直線で50m以内であれば使用できるように緩和されました。同じく、通りや街道名を取り入れた物件が増えそうです。

新築物件の募集がしやすくなる変更もありました。これまで建物が未完成の場合に広告表示できる建物写真は、「規模、形質及び外観が同一の他の建物の外観写真」に限り認められていました。今後はまったく同一でなくても、募集建物の施工者が過去に施工した建物であること、構造や階数や仕様が同じであること、規模や形状や色等が類似していること、以上の条件を満たす場合は写真を使えることとなりました。もちろん実際の物件ではないことを明記するなど、誤解させないように注意書きすることは必要です。 

抽象的な表現の多いマンションポエムには理由がある

さて、このように不動産広告には厳しい規定があります。最近では、マンションのチラシに書かれた独特の文言が「マンション・ポエム(詩)」などと呼ばれ若者を中心に静かなブームとなっています。確かに不動産のチラシでは「住む」が「住まう」となったり、「聖域」(と書いて、ステージと読ませる)のように宗教的な文言が多用されたりします。なぜ、このようなイメージ的な文言ばかり使われるのでしょうか︖不動産のチラシデザインを手がける会社に聞くと、不動産広告に使う文言にも規制が多く、「完璧、日本一、最高」などの最上級を意味する文言や、「バーゲンセール、破格、お買い得」などの安いという印象を与える文言を使えないそうです。

 

独特な言い回しから、購入する不動産に対する「非日常感溢れる理想の生活」というイメージ付けに成功していますが、これは狙っているわけではありません。不動産表記のルールに沿った限定的な言葉によって表現されているわけです。見る人によっては違和感を感じる人も多いかもしれませんが、これは表現方法が限定されている現代の不動産表記上は仕方のないことだったのですね。

 

今回の改訂でも、広告で使用できる文言の解禁は見送られましたので、これからも「マンション・ポエム」と言われる表現がしばらくは多用されることになるでしょう。

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